第1章 ウクライナの奇襲作戦の全貌と軍事的インパクト

2025年6月、ウクライナによる「Operation Spiderweb」と呼ばれる奇襲作戦が、ロシア・ウクライナ戦争に新たな局面をもたらしました。
この作戦は単なる戦術的な成功にとどまらず、国際政治や法秩序、さらには戦争の倫理的な枠組みにまで問いを投げかけています。
ここでは、この作戦の背景や実態、軍事技術としての意義、そして国際社会に与えたインパクトについて整理してみましょう。

ウクライナはロシアによる長距離巡航ミサイル攻撃に長らく悩まされてきました。
とりわけTu-95「ベア」やTu-22「バックファイア」などの戦略爆撃機は、ウクライナ本土の深部にまで高精度の攻撃を加える能力を保持しており、その存在はロシアの攻勢維持の重要な柱となっていたのです。

これらの爆撃機は、ロシア国内の遠隔地、いわばウクライナ軍の直接の攻撃圏外に置かれ、安全圏からウクライナの都市やインフラを脅かしていました。
ウクライナ側にとって、この戦略的不均衡を打破することは喫緊の課題でしたが、通常の航空戦力や地上兵器では実行が困難であることは明白でした。

そんな中、ウクライナは極めて革新的なアプローチを採用することになります。
それが今回の「Operation Spiderweb」です。

この作戦の中心には、事前にロシア国内に潜入させたドローン群がありました。
これらの無人機は、軍の正規ルートではなく、密輸や情報工作ルートを通じて戦略爆撃機基地周辺に持ち込まれ、特定のタイミングで一斉に発進しました。
ターゲットは、爆撃機そのものに加えて燃料供給設備、整備インフラ、さらには基地内の指揮通信施設にまで及びました。

この手法は従来の「正規戦」の枠を超えた、非対称戦争の新たな典型とも言えるものでした。
低コストかつ大量のドローンを一斉投入し、ロシア軍の防空網の意表を突いたのです。
ロシアの防空体制は主に長距離・高高度脅威に備えて構築されており、低空・低速かつ数十機規模で侵入する無人機群には対応が後手に回ったようです。

その結果、報道によれば、30〜50機規模のTu-95およびTu-22戦略爆撃機が破壊または大きな損傷を受けたとされています。
これはロシア軍の長距離攻撃能力にとって極めて深刻な打撃でした。
短期的には、ロシアによる巡航ミサイル攻撃能力は30〜40%程度低下したとも言われています。

また、滑走路や燃料貯蔵施設、基地の一部通信設備も破壊されたため、基地の稼働自体が一時的に停止に追い込まれたことも確認されています。
こうした直接的な軍事的成果だけでなく、心理的なインパクトも非常に大きかったことは見逃せません。

ロシア国内では、「ロシア領内深部は安全である」という認識が大きく揺らぎました。
これまでの戦争は、ウクライナ本土が攻撃され、ロシア本土は戦場の外という構図で続いてきました。
しかし今回の作戦により、ロシアの戦略的中枢が攻撃の対象になりうるという現実が国内に広がったのです。

これは、ロシア国内の安全保障観にとって一種のショックとなり、プーチン政権内でも軍の防衛能力や情報セキュリティに対する厳しい批判が噴出しました。
国民レベルでも、戦争の距離感が大きく変わった瞬間だったと言えるでしょう。

さらに、この作戦は国際的にも大きな注目を集めました。
なぜなら、ドローン戦術の新たな段階を示した事例だからです。

従来、ドローンは偵察や局地的な攻撃に用いられる補助的兵器と見なされてきました。
しかし「Operation Spiderweb」は、国家の戦略核抑止の一角を担う兵器(戦略爆撃機)を直接標的とし、大規模かつ成功裏に攻撃を完遂した初めての事例として歴史に刻まれるでしょう。

この事例は今後、世界中の軍事関係者にとって重要な研究対象となるはずです。
低コスト・大量投入型のドローンが、既存の防空概念をいかに打ち破り得るか。
また、どのような形で国家中枢の抑止戦力を非正規戦術で無力化しうるか。
こうした問いが現実のものとなったのです。

軍事的にも政治的にも「Operation Spiderweb」は、戦争のあり方そのものを再考させる作戦でした。
ウクライナにとっては、ロシアの戦略攻撃能力を削ぐ大きな成功であり、世界に向けては非対称戦術の威力を示す象徴的な行動でした。

しかし同時に、この成功は新たなエスカレーションの火種ともなり得ます。
事実、ロシア側は今回の奇襲を「自国領への違法攻撃」と位置づけ、戦争目的や進攻範囲の正当化に活用し始めています。
ウクライナの奇襲が意図せざる形で ロシア側に「侵略範囲拡大の口実」を与えてしまったことは、今後の戦局や国際秩序に重大な影響を及ぼすかもしれません。

次章では、この作戦が国際法上どのような位置づけに置かれるべきなのか、そして国際秩序とエスカレーションの構造にどのような影響を与えているのかを詳しく見ていきます。